X市職員採用試験Part.11

それは、年末の冷たい空気が少しずつ現実味を帯び始めた頃のことだ。

最終合格の通知を受けて胸をなでおろしたものの「合格=採用」ではないのが公務員試験である。
採用候補者名簿に載っただけでは、まだ入口に立ったに過ぎない。採用内定という確かな連絡が届くまでは、将来は霧の中だ。

名簿の有効期限は、採用日が4月1日の場合、翌年度末までであることが多い。
つまり、人によっては一年以上、行き先の決まらないまま待つこともある。

その落ち着かなさに耐えきれず、私は念のため職員課に確認の電話をすることにした。

――以下、やり取りは簡潔に記す。

私「採用試験を受けた○○と申します。職員課をお願いします」
代表電話「かしこまりました」

職員課「はい、職員課です」
私「最終合格をいただいた○○です。内定の場合、通知はいつ頃になりますか」
職員課「欠員の状況によるのでお答えできません」

私「昨年はどれくらいの時期だったか教えていただけますか」
職員課「それもお答えできません」

私「・・・では、遅くともいつ頃までに結果がわかりますか」
職員課「欠員の状況によります」

――会話は、ほとんど同じ言葉の往復で終わった。

受話器を置くときの「コトン」という小さな音だけが、妙にはっきり耳に残った。
冷徹だと感じたのは、回答そのものよりも、私が心のどこかで期待していた答えとあまりに距離があったからだと思う。

当時の私は、「これ以上聞いたら名簿の順位に影響するのでは」と、今振り返れば少し過剰な気遣いにとらわれ、深追いできなかった。

だが今なら、こう考える。

――職員課がだめなら、別の窓口に相談すれば良かったのではないか。

制度上、答えられないことがあるのは理解している。
それでも、先の見えないまま時間だけが過ぎていく状況は、決して健全とは言えなかった。

電話を終え、私は上司に退職の意向を伝えた。
そして、内定が出るかどうかもわからない市に、住民票ごと移す覚悟を固めた。
自分でも突拍子もないと思いながら、それでも前に進む選択しか見えていなかった。

やがて引っ越しの準備を進めるうち、胸の奥に小さな違和感のようなものが静かに居座り続けているのに気づいた。
不安とも後悔とも違う、靴の中に入った砂粒のような、微かなざらつきだ。

──この引っ越しには、まだ続きがある。

そう告げるように、段ボールを閉じる音だけが、やけに未来を含んだ響きを持っていた。

その理由を知るのは、すべての手続きを終えた、もう少し先のことになる。

市役所
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管理人

公務員試験で採用漏れになり何もかも失った公務員試験バカ。
市役所に最終合格したので仕事を辞めたものの、結局4月採用の連絡は来ませんでした。
受験歴は学生時代に17自治体、社会人時代に10自治体。
公務員試験の真相を詳らかするため、ブログで発信しています。

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