Part.6・・・成績開示と総括
前回で試験の再現は終了した。今回は神奈川県職員採用試験(秋季チャレンジ)の最終回をお送りする。
神奈川県庁に合否発表を見に行った帰り、これまでに尽力してきた秋季チャレンジの試験対策について回顧していた。
思えば、A・B・C日程の試験に序盤で落ち続けてから、秋季チャレンジに賭ける想いは相当強いものになっていた。
とくに第1次試験の合格後から、合格に必要な対策はやれるだけやった。
まずはグループワークの対策だ。
秋季チャレンジのグループワークは特殊である。予め話し合いのテーマが通知されるからだ。
私の時は「世界に普及・浸透させたい日本の文化は何か、グループで5つ挙げ、順位をつけた上で、その理由について説明しなさい」というような内容だった。
事前に考える時間が与えられるということは、それ相応のレベルの話し合いになると予想した。そのため、グループワークに不安が募っていった。
これまで受験してきたグループワークの結果では、合格と不合格が五分五分といった成績だった。これは対策せねばならない。
私はグループワークの模擬討論をしてくれる、とある公務員予備校に電話して予約をした。試験前に、シミュレーションしておくのは一つの安心材料になる。今回ばかりは、自信を持って試験に臨みたいし、後悔だけはしたくない。
当然、毎日仕事もしている。頭の中は試験のことばかりだった。いつ内定が出るのか、いつ辞めようか、手帳を眺めながら理想のスケジュールを組んでいた。
職場での昼休み、その公務員予備校から電話があった。
グループワーク対策講座の申込者数が少なく、模擬討論ができないので開講されないとのことだった。
これは困った。万全を期したかったが、仕方ない。
私はネットで公務員予備校の講師のブログを読み漁った。
その結果、課題文をどう読みとくかが鍵となることがわかった。課題文にある言葉の意味を考えなければならない。
今回でいえば、「普及」だけでなく「浸透」させるとはどういう意味なのか。そこを突き詰めて考えることで、深い討論になるということだ。
私はしっかりと個人の考えをまとめて本番に臨んだ。
実際の試験の様子は前回までの記事を参照してほしい。
続いて、個別面接の対策も行った。厄介なのは、5分間のプレゼンテーションだ。
私は公務員予備校の対策講座を受講した。ちなみに模擬面接ではなく、座学である。過去の受験者の情報が手に入ったので、有意義ではあった。
こうして、試験に対する不安は払拭された。そこで学んだことを以下に示す。
プレゼンのコツは、質問に対してシンプルに答えることだ。
具体的には「意欲・向上心・行動力」をわかりやすくアピールすること。
まず、冒頭でプレゼン全体の流れを説明する。
次に「意欲・向上心・行動力」を一つずつ説明していく。
意欲があるとわかるエピソードを選び、その時の状況と自分の役割を説明する。そして自分の考えや行動によって、その状況が好転したという結びで終える。
向上心・行動力についても同様に進める。
最後に、県庁で働く上での抱負を述べる。
時間のない中で付け焼き刃の対策となったが、不思議と力が漲ってきた。
もしかしたら、合格するかもしれない。
自分なんか県庁に受かる実力はない。そう悟って、自然と市役所だけを志望していた。
そんな私が、まさか、県庁勤務というプラチナチケットに片腕を伸ばしている。
わくわくしないわけがない。
グループワーク終了時点では、心中ガッツポーズであった。
会心の出来だ。きっと得点は8割超えだろう。私が高得点でなかったら、いったい誰が高得点を取るのか。
しかし、個別面接が始まってから不穏な空気が流れはじめる。
プレゼンが5分で収まらなかったのと面接官のボスと思われる白髪と会話が噛み合わなかったのだ。
たしかに、それは減点対象だ。しかし、面接の評価は全体で決まる。こんなことでへこたれてはいけない。
さらに合格への期待を後押ししたのは、当該年度の秋季チャレンジが例年になく合格しやすい穴場試験だという噂だ。
どういうことか説明しよう。
まず、過去2年間の結果では採用者数40人に対し、最終合格者数は61~66人という状況が続いていた。
そして受験者も毎年200人ほど減少しており、倍率も下がっている。
当該年度は採用予定者数が50人に増えており、さらに民間就活の活性化により受験者も大幅な減少が見込まれていた。つまり、昨年の倍率14倍よりも低くなり、合格しやすいのだ。
そんなことを思い返しているうちに、採用後の生活について妄想が及んでいった。
私は学生時代から、公務員試験を受けるたびに、インターネットで採用後の新居を探すことがライフワークとなっていた。
この市に採用されたら、理想の住まいに引っ越そう。
頑張って公務員試験に合格した自分へのご褒美だ。綺麗で十分な広さの新居で、ストレスフリーな生活をするのだ。
不動産会社のサイトで好みの賃貸物件を検索するのが癖になっていた。
いつも気分転換には、Google Mapで新居周辺を散策し、実際に新しい土地での暮らしを脳内で始めていた。
当然神奈川県庁に近いほうがいいよな、ここはどうだろう。
本当に妄想は尽きない。気づけば、降りる駅だ。
日本大通り駅に降り立つ。横浜の景観ももう慣れたものだ。4か月後には、ここをスーツ姿で颯爽と歩くことになるのか。
しばし想像してみる。
悪くない。
駅周辺にはレトロな建築物が目に入る。初めて来たときは物珍しいと感じていたが、今はもう日常の一部だ。
スマホの地図アプリを起動するまでもなく、目的地まで歩く。
高齢公務員受験生は記憶力に長けているのだ。一度歩けば、道など軽く覚えてしまう。
浜風を切って歩く。
道中、大学生風の陽キャグループとすれ違ったが、私は彼らとは違う。
遊びで来ているのではなく、仕事で来ているのだ。
この建物は何かな?
そうか、開港記念会館か。二年前にも見た気がするな。
これは何だ?
横浜商工会議所発祥の地・・・。そうだった。忘れていた。
歩けども、歩けども、県庁には辿り着かない。
仕方なくGoogle Mapを見ると、みなと大通りを県庁とは逆方向に歩いていた。
チッ
時間を無駄にしたじゃねえか。
まあいい。合格していればこの疲れも吹き飛ぶだろう。
人生2度目の神奈川県庁新庁舎へ向かう。あの本庁舎と新庁舎をつなぐ渡り廊下には見覚えがある。
新庁舎に入り、階段で2階へ。一般の来庁者などほとんどいない。そもそも出歩いている人が少ないので、私服の私は非常に目立つ。
合格者の番号が貼り出されいるフロアに入ると、右手に貼り紙が。
これだ。
ぱっと見、嫌な予感がした。思ったより合格者が少なかったからだ。
順番に自分の番号があるか確認する。
ーーーない
番号が少なかったのであっという間に不合格が判明した。
働きながら、1年以上かけて挑んだ公務員試験に撃沈された瞬間だった。
何度も確認した。一旦、お手洗いに行ってからもう一度確認した。
そんなはずはない。
何度確認しても不合格だった。
その場で、成績開示をした。淡々と処理をする職員の前で涙を必死にこらえた。
当然ケーキを買って帰れるわけもなく、逃げるように横浜を後にした。
帰りの車内では、何を考えたのかも覚えていない。
公務員について考えると苦しくなるので、コンビニの新商品でも検索していたに違いない。
公務員試験を受験するということは、こういうことだ。次こそは、来年こそは受かるだろうと考え、いつまでも受からない。いつしかそんな状況に慣れ、毎日同じことの繰り返しで安心し、人々が遠ざかってゆく。
ここまで読んでくれた稀有な方に向けて、最後に私の秋季チャレンジの結果を述べて終わりたい。
点数を明記する代わりにおおよその得点率を記載する。
最終順位:得点:論作文:GW:第1面接:第2面接:1次順位
70番台:40%:50%:60%:70%:30%:10番台
※得点は第2次試験で採点される試験の得点を合算したもの
※実際には第1次試験の素点と換算点も開示されている
最終順位が70番代であったので、例年通りであれば合格の可能性は十分にあった。そして、1次順位が高すぎることにも驚いた。
1次の順位は2次には関係ないので落ちても不思議はないのだが、それにしても1次の受験者が733人もいたことを考えると、この高得点で最終不合格なのは自分に嫌気が差す。
ちなみに2次の受験者数は219人、合格者は49人。まさかの採用予定者割れで、公務員予備校の予想も外れた。蓋を開けてみれば、昨年より倍率は上がった。
合格最低点は得点率でいうと5割5分程度。数字で見ると低いように思う。
私の自己評価と比べると、GWと1次面接の得点が低いと感じた。平均点や標準偏差がわからないのでなんとも言えないが、いったいどんな判断だと思う。第1面接なんて、面接官がハズレだったではないか。あんなの、受験者の評価に差が出ないと思う。
しかし不合格になった原因は、第2面接だ。配点が高く、これでしくじると痛い。
私はさすがに6割は超えているかと思っていた。だが、それを大きく下回った。
原因はプレゼンが5分に収まらなかったことと、面接官のボスと話が噛み合わなかったことだ。
それ以外に考えられない。
秋季チャレンジには制度上の欠陥もある。
第1次試験と第2次試験の間が3日しかないひともいれば、15日も空いている人もいる。
すなわち、準備期間が約2週間も違うのだ。プレゼンなど、2週間あったら十分に練習ができた。本番であんな目に遭うこともなかったのだ。面接官がこの事情を加味しているとは思えない。
さらに合格者数は6月の試験での内定者の辞退率によって変動する。秋季チャレンジは6月の試験で確保できなかった人員の補填という意味合いもあるからだ。だからこそ、今回は予備校の予想も外れた。
そして、私服受験であったこともいいことばかりではない。私は私服で受験することができたが、仕事の都合上、スーツで受験せざるを得ない人もいるはずだ。
したがって、スーツと私服が交ざり合う、なんとも不思議なGWになったのだ。受験者にしてみれば、私服でないために評価を下げられるのではないかという不安もある。
今思い出しても、自分の運のなさに辟易する。せっかくなので不満をぶちまけるが、グループワークで一緒だったメンバーで合格していたのが1人いた。可もなく不可もなくといった感じの女性だった。
結局、公務員にはそういった目立たない人物が好まれるということか。優秀であっても、奉仕の精神や協調性がなければ、公務員になった後苦労する。最低限、自分の意見が言えてコミュニケーションが取れれば公務員として十分だということが良くわかった。
この記事を書くにあたり、もう一度秋季チャレンジについて調べてみたのだが、某就活支援サイトに神奈川県人事課長のインタビュー記事が載っていた。求める人物像、なぜ秋季に試験を行うのか等、受験を考えている人には参考になると思う。
最終的なアドバイスは次の2点だ。
①第1次試験はとにかく自己PRシートを埋めること(もちろん合格最低基準点が存在するので基礎教養の足切りにも注意)。
②第2次試験ではプレゼンを5分間に収めること。戦略としては普通に話して4分で終わる原稿を作り、ゆっくり話して4分50秒ほどで終わらせる練習をする。本番では面接官に伝わりやすいようゆっくり話したほうがいいし、ホワイトボードに書きながらだと意外と時間がかかるからだ。
論作文やグループワークは、ほかの受験者と差をつけにくいと思う。やはり配点が4倍もある第2面接に注力するべきだろう。
2度目の秋季チャレンジ試験は、私に長い長い夢を見せてくれた。その夢と現実との落差で、私は完全に正常な思考を失っていた。
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