二次試験は集団面接だった。
正直に言えば、集団面接は私にとって大得意分野だ。過去の公務員試験でも、集団面接で落ちたことは一度もない。
受験者は5人で、それぞれアルファベットが付与され、私はD。面接官4人のうち、私の向かいは右から2番目に座る。面接官には便宜上、W~Zのアルファベットを付す。
最初の2人の面接官WとXの質問は割愛する。
3人目の面接官Yの番で、挙手制が始まった。挙手制とは、面接官が指名するのではなく、挙手した者から答える方式だ。
Yからの質問は3つほど。私はすべての質問で最初に手を挙げ、答えた。
もちろん、意図的に「一番に答えよう」と思ったわけではない。質問のたびにほかの受験者が考え込んでしまったため、結果的に私が先頭に立つことになったのだ。
面接では、最初に挙手する積極性が評価されることもある。2~3回、自然に最初に答えることは戦略として正攻法だろう。
面接官Y:あなたが他人とコミュニケーションをとる上で大切にしていることは何ですか。
受験者D(私):(挙手)
面接官Y:では、Dさん。
受験者D(私):はい、私がコミュニケーションをとる上で大切にしていることは、意思表示です。自分のわかる、わからないをはっきりさせたほうが、一緒に仕事をする人がやりやすいと思うからです。とくに新人のうちは先輩方から仕事を教わる機会が多く、どこまで理解しているのか相手に伝えることは、業務の進捗に関わります。ですので、しっかりした意思表示は大切だと考えています。
受験者B:私がコミュニケーションをとる上で大切にしているのは、人の話を最後までよく聞くことです。私はアルバイトで塾講師をしているのですが、たまに生徒から相談を受けることがあります。生徒は色んな悩みを抱えているのですが、私は話を聞いていると、老婆心からすぐにアドバイスを言いたくなります。しかし、これでは生徒からの信頼を得られないと感じました。今では相手の話を最後までよく聞いて、その上でアドバイスをするようにしています。
受験者C:はい、私は、相手の話を否定しないことが大事だと思います。どんなことでも相手の話を肯定するのが大事だと思います。実際にこんなことがありました。(略)。
受験者E:はい、私もCさんの意見と同じなのですが、相手の話を否定せずによく聞くことがコミュニケーションをとる上で大切だと思っています。私はサークル活動で吹奏楽をやっており、多くの仲間と接してきました。あ、部長をやっていたのですが、OBの方々とも活動してきました。部員と意見が食い違うこともありましたが、そんなときも部員一人ひとりの意見を聞き、円満に事が運ぶよう頑張りました。以上です。
受験者A:えっと……私は他人の話を否定せずに最後まで聞くことが大切だと思います。 バイト先でもコミュニケーションはよくとれていると思います。 えーと、その人の意図をくみ取る……というか、相手の話を最後まで聞き、 相手を否定しないのがいい……です。そういうのが大事でぇ、私も、え~できてると思います。(沈黙)
実に公務員らしい回答が並ぶ。いや、公務員受験者らしいといったほうが正しいか。
面接官Y:わかりました。私からの質問は以上です。
面接官Z:では、私からは2点、質問させていただきます。皆さんの尊敬する人物は誰ですか。それではAさん・・・
その瞬間だった。
ババババッ
まだ面接官が話しているにも関わらず、私以外の4人が我先にと手を挙げた。
私は唖然としてしまった。
おそらくほかの受験者は、先ほどの面接官の質問で、最初に手を挙げることができず、積極性をアピールできなかったためこのままではマズいと思ったのだろう。 絶対に1番になりたくて、面接官Zが話し終わる前に挙手したのだ。
もう、面接官Yの番は終わっているので挙手制ではなくなっている。
「コミュニケーションをとる上で大切にしていること」という面接官Yの質問では「話を最後まで聞く」と皆、図ったかのように口を揃えて同じ答弁を続けていたのに、これでは嘘つきではないか。 ついさっき話したこととまるっきり矛盾しているのだから。
しかもその質問がどの仕事にも通じる根幹ともなる考えだ。 その答えと矛盾してしまうということは、その場しのぎの回答に過ぎなかったのだろう。
私は「人の話を最後まで聞く」とは言っていないが、この5人の受験者の中で誰よりも相手の話を聞けることを、無意識のうちに示す結果となった。
まったく話の聞けない人間と一緒にいることで、私は怖くなってしまった。 個人的に、せっかちな人間が苦手なのかもしれない。
面接官Z:!!(まだ話の途中なのに挙手されて呆気にとられる)じゃあ、挙手してもらっていいですよ。最初に挙手したBさんからお願いします。
この質問に私は最後に回答し、その後は、とくに面白い展開もなく終了した。
振り返れば、集団面接はやはり面白い。人間の心理と行動の観察がすぐに結果に現れるからだ。
次回は、三次試験の体験を記録したいと思う。

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