夏までに公務員試験の最終合格をもらえなかった受験生の敗者復活戦。
それが、神奈川県の秋季チャレンジである。
この試験は毎年10月下旬に第1次試験が実施され、直近だと採用予定者数50名に対しおよそ750人が受験している。
ちなみに神奈川県はA日程でも採用試験を実施しているので、A日程で不合格になった人も受験しているのではないかと思われる。
さて、私も東大和市と並行して受験した。もちろん内定なし。もう、ここに賭けるしかない。
が、如何せん試験内容が独特なので不安しかなかった。
第1次試験は基礎教養試験と自己PRシート。
第2次試験が論作文(第1次試験で実施)、グループワーク、2回の個別面接(うち1回はプレゼンテーション含む)。
1次に通ったとして、個別面接のプレゼンなぞ未知の世界だ。そもそも、自己PRシートも書いたことがなかった。
ネットで検索したところ、志望動機と自己PRが訊かれるようだったので、仕方なく用意した記憶がある。
第1次試験の試験会場は日本大学湘南キャンパスだった。自宅からは遠すぎるので、近くのビジネスホテルを予約し、前泊した。ホテルでは、必死に志望動機を暗記したのを覚えている。
自慢することでもないが、私は試験のために前泊した回数なら誰にも負けないと思う。
試験当日の朝、ホテル近くのガストに出向いた。宿泊したホテルで無料朝食券を貰ったからだ。
早朝ということもあり、気温は低く、やや肌寒く感じながら外を歩く。
私は寒がりであり、緊張しやすい体質なので、勘弁してほしかった。試験中にトイレに行きたくなったら地獄だ。
階段を上がって入店すると、好きな席に座るよう促された。私は4人用のテーブル席に1人で陣取る。
店員に朝食セットを頼み、周りを見渡す。
ファミレスなんて滅多に来ない。朝はなおさらだ。
周囲はほとんどが高齢者。新聞を広げ、眼下の通勤ラッシュとは無縁の時間を過ごしている。自分が就活で必死こいてる間、行き場のない高齢者はファミレスをたまり場としていたのだ。人生は皮肉に満ちている。
そうこうしていると、料理が運ばれた。メニューはたしか、サラダ・トースト・ウインナー・スクランブルエッグ・ヨーグルトだ。スープか飲み物も付いていたと思う。
学生時代から一人暮らしで、家でまともな食事など取ったことがない。キッチンに立ったことがないからだ。トーストなんて、本当にご馳走に感じた。
しかし、食べ始めてからほんの数分で、体に異変が起きた。
吐き気だ。猛烈な吐き気が私を襲う。
またか。やっぱり大事なときはいつもこう。何をしても無駄だ。
そう。この感覚は初めてではない。私は中学時代から会食恐怖症(外食恐怖症)なのだ。
会食恐怖症とは、飲食店など、外で食事をすると体調が急変しまともに食事ができなくなる心因性の病気だ。たいてい、飲食店を出ると体調は戻る。むしろ、空腹でお腹が鳴る。私の場合、食事をとるのが一人でも大勢でも症状は変わらない。個人差のある病気だ。
食べきれなかったらどうしよう・・・これが、私の外食恐怖症の始まりだ。他人から見れば料理を残すただの不届き者だろう。
神経質な私にぴったりの病気だった。
大学生になっても変わらない。人間、そう簡単には変わらない。この病気のせいで、友達ともご飯に行くことはなくなった。自然と、友達など減っていった。
話を戻そう。
トーストをかじっても、喉が受け付けないのだ。お腹は空いている。だが、食べ物を口に入れた瞬間、吐き戻したくなる感覚。
結局、無理矢理ヨーグルトを流し込み、スクランブルエッグには手を付けずに店を出る決意をした。早く移動しないと試験まで時間がない。だが、まだ店の中だ。
無料券利用なので金を払う必要はない。店員に伝票を渡すだけだ。しかし、テーブルには半分以上手つかずの料理が残っている。本当に、申し訳なくなった。
もう時間がない。勇気を出して席を立ち、店員に「すみません。時間がないので残してます」と告げて店を出た。
外に出ると気分爽快。このことは忘れることにした。試験に支障が出るとまずい。
ホテルに戻りチェックアウト。電車に乗って試験会場に向かう。
試験会場に到着し教室に入り自分の席を確認する。その後トイレに向かうと大行列。受験者数が多いので仕方ないが。
そんなこんなで試験は終了した。手ごたえはない。何せ今まで不合格しかもらっていないからだ。
手ごたえがあったという感覚がないのだ。
11月上旬の合否発表。
結果は、不合格。
もはや驚かない。神奈川県人事委員会も正常な判断をしている。
今まで不合格続きだった奴がここにきて合格するわけがない。
2次のプレゼンテーションのことは杞憂に終わった。最初から心配する必要もなかった。
本当、滑稽だ。
私はつくづく自分が無能だと思う。
よく公務員試験の性格検査で「私は無能だと思う」「私は有能だと思う」とか「私は欠点が多いと思う」「頑張ればたいていのことは上手くいく」みたいな選択肢があるが
私は前者に「よく当てはまる」をマークしていた。
公務員試験に落ち続け、民間就活でも失敗続き。気づけば周りは卒論を気にする季節。
就職が決まった奴らは、後輩のために就活ガイダンスで体験談を話している。
昔から、真面目一辺倒だと言われてきた。だから公務員を目指したわけではないが、向いているかどうか問われれば、確実に公務員に向いていると思う。
不合格が決まった後、律義に神奈川県庁まで行って成績開示をした。
下位だった。
横浜って、オシャレだな。こんなところで働けたら、毎日幸せだろうな。
周りに田んぼしかなかった田舎民は、叶うことのない将来の展望に思いを馳せた。
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