【少し面談の時間をいただいてもよろしいでしょうか】
私は部長にチャットでそう送った。
しばらくすると
「いいよ」
声が返ってきた。
部長は、社員がいつも打ち合わせをしているオープンスペースで話そうとしたが、私は「誰もいない場所で」と断った。
事務室から少し離れた会議室で、部長と二人きり。
机を向かい合わせにして座る。
この空き会議室に来るまでの間に、部長の頭にはこれから起こることが浮かんでいるのだろうか。
「あの……大変申し上げにくいのですが、退職させていただきたいです」
私の言葉に、部長は机に向かってため息をついた。
そして笑い混じりにこう言う。
「この会社じゃダメだったか」
ダメなものか。
この会社には感謝している。
社会人としてのいろはを教えてもらったし、何より好きな業界で働けた喜びは大きかった。
しかし、学生時代に敗れた公務員試験にリベンジしたい気持ちは、どうしても抑えられなかった。
このままでは、ずっと負けた自分を背負いながら生きていくことになる。
働きながら受験する道を選んだのは、その覚悟の表れだった。
「退職の許可をいただきたいです」
「許可もなにも、止めることはできないからね。わかったよ。じゃあ退職届を出してね」
こうして面談は終了した。
事務室に戻る部長の足取りは、どこか早く見えた。
退職を告げたのは1月のこと。
年明け早々、私は人生の大仕事を終えたのだ。
ただ、心の片隅には小さな不安が残る。
私は本当に、4月に採用されるのだろうか。

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